先日、書店でたまたま吉田秀和『二十世紀の音楽』(岩波新書、1957)が売られていたのを目にし、久しぶりに再読してみたくなった。そこで手持ちのもの(白水社の全集所収)を引っ張り出してきた。読んでみると、やはり同時代の動きを論じた1つの歴史のドキュメントとして面白いし、現在でも古びていない重要な指摘も随所に見られる。だからこそ、時折復刊されているのだろうし、それを現在の読者も喜んで読むのだろう。
とはいえ、それだけに、こうした今や「歴史の一齣」となった名著には第三者の手になる註釈が必要だと思う。文中には誤り(たとえば、ヴェーバーンの交響曲が「四楽章にわかれた」ものだと述べられていたり、ストラヴィンスキーが指揮者を教会の堂守の鐘撞きに喩えたのを『自伝』の中でのことだとしていたりする)や現在の読者にはわかりにくい事柄がいろいろと含まれているのだから。版元の岩波書店は文庫で近過去のテキストにも註釈をつけたものをあれこれ出しているのだから、この『二十世紀の音楽』も新書をそのままのかたちで復刊するのではなく、新たにきちんと註釈と解説をつけて文庫に収めれば、ずっと読み継がれる「古典」の仲間入りを果たすに違いない。