ジャズにはいわゆる「スタンダード・ナンバー」、つまり、多くのミュージシャンがネタにしているレパートリーが数多あるのはご存じの通り。それはミュージカルの中の1曲であったり、映画音楽のものだったりなどいろいろである。皆がよく知っている曲であればこそ、それを料理するジャズ・ミュージシャンの腕がよくわかるわけだ。
もっとも、時が経てば、「スタンダード」の中身にも入れ替えが生じる。古くて手垢のつきすぎたものに代わって、新しい生きの良いネタが適宜取り入れられる。その中にはすぐに消えてしまうものもあれば、長く残るものもあろう。ハービー・ハンコックのアルバムThe New Standard(Verve, 1996)はまさに当時の「新しいネタ」を集めてきたものだが、現在、そのうちのどれだけのものが「スタンダード」として定着しているだろうか。気になるところだ。
日本のジャズ・ミュージシャンが自国のポピュラー音楽からどれだけのものを「スタンダード」として取り入れているのか、私は門外漢だから知らない。が、日本の往年のヒット曲、名曲の数々がジャズとして聴ければ楽しいだろうなあと思う。さて、その場合、どのような曲が選ばれるのだろうか。もしかしたら、かくも好みが細分化してしまった現在、「スタンダード」を選ぶことなどできないかもしれないなあ。