サンソン・フランソワ(1924-70)が弾くショパン、ドビュッシーやラヴェルを聴いていると、それぞれの作品が「どう弾かれるべきなのか」などということはどうでもよく思われてくる。彼の演奏の多くは「理想的な作品解釈」、つまり、「作曲家が作品で言わんとしたことを理想的なかたちで現実化したもの」ではないのかもしれないが、そんなことはどうでもよい。現に鳴り響いている(録音というかたちではあるが……)個々の演奏自体が理屈抜きの説得力を持っている、すなわち、「魅力的なパフォーマンス」だからだ。同じようなことは、たとえばグレン・グールドなどについても言えるが、そうした「ミュージシャン」の演奏を「作品解釈」の点からのみ評価・批判しても仕方あるまい。それは肉屋で「ここには白菜がないようだが……」と文句をつけるようなもの、つまり、「お門違い」というものだ。現役の演奏家でいえば、ヴァイオリンのパトリシア・コパチンスカヤ(1977-)はこの範疇に属する人であろう。では、ピアノだとそれは誰だろう?