2021年4月19日月曜日

メモ(46)

   ある音楽作品や演奏を聴いて、自分の好みとは著しくかけ離れているがために不快に感じたり、腹が立ったりすることはあろう。だが、その根拠は突き詰めればあくまでも個人の主観や価値観である(たとえ、それを共有しているように見える人が多数いたとしても)。なので、それを不用意に一般化すべきではない。すなわち、「これは私にとっては『音楽ではない』」とか「この演奏は私にとっては酷い」とか思うのはかまわないが、「これは(誰にとっても)音楽ではない」とか「この演奏は(誰にとっても)酷い」などと判断をくだすのは誤っている、ということだ。

 もちろん、現実には「この作品はつまらない」とか「あの演奏は酷い」とかいったことはごく普通に語られている。が、そうしたものは省略体として読むべきだ。すなわち、「私にとって」という文言が省かれたものとして。「この作品はつまらない」という発言は、「私はそう思う」ということを示すものであり、あるいは「私はそう思うが、皆さんはどう思いますか?」という問いかけである――こう考えれば、つまらない、どうでもよい発言にいちいち腹を立てることはなくなるし、自分とかけ離れた考えを示す言葉に対しても「なるほど、そういう見方もあるのだなあ」と心穏やかに向き合うことができる。