2024年7月16日火曜日

《ノルマ》がノルマ?

  演奏家のレパートリーには「古典名曲」として時代の移り変わりを超越したものもあれば、流行廃りの中で浮き沈みするものもある。私の少年時代、往年のヴィルトゥオーソが愛奏した曲、たとえば、リストの《ドン・ジョヴァンニの回想》や《ノルマの回想》などは忌むべきものとされていたのか、演奏会はもちろん、録音でも普通に聴くことができなかった。

 ところが、今やそうした作品は猫も杓子も取り上げるようになってしまった。試しにYou-Tubeで《ノルマの回想》を検索してみると、いくらでも見つかるではないか。まるで、今やピアニストが身の証しを立てるための「ノルマ」であるかのごとくに、多くの(とりわけ若い)ピアニストがこの曲を弾くのだ。

 そこで、興味からそれらの演奏を聴いてみると、皆、まことに達者である。が、たぶん、それは(古い録音からわかる)昔のヴィルトゥオーソが行っていたような演奏とはどこかが違っているように聞こえる。もちろん、時代が異なれば感覚も違ってくるのは当然のことであり、それを悪く言うつもりはない。だが、それはそれとして、最近の《ノルマの回想》の演奏に説得力――聴き手を音楽のドラマに引き込み、最後まで魅了してくれる力――を感じることはあまりない。

 ただ、これはもしかしたら、新しい演奏の流儀の面白さに私が気づいていないだけなのかもしれない。というわけで、これからも《ノルマの回想》(に限らず、その手の作品)の新たな演奏を聴きつつ、いろいろ思いを巡らせることにしよう。