異なる文化圏の間では「翻訳不可能」な概念、あるいは、そこまで言わなくとも、近似知的にしか翻訳できない概念というものはいくらでもあるだろう。そして、異文化間コミュニケーションにおいては「こんにゃく問答」のようなことはいくらでも起きていることだろう。
今日、ふと気になったのが、ensembleという語である(この語にはいろいろな意味があるが、ここでは音楽の場面に限ることにしよう)。日本語では「アンサンブル」と音訳されて用いられることが多いが、果たして多くの日本人が西洋音楽で行っている「アンサンブル」は彼の地の人たちのそれと全く同じものなのだろうか? もちろん、両者が全く異なっているというのではなく、大部分で意味は重なっていることだろう。が、「和も以て貴しと成」し、同調圧力が高い日本のライフスタイルを身につけた人たちにとっての「アンサンブル」と、それとはおよそ異なる気風の西洋人たちのensembleには、少なからぬ場合、どこかに何かしら根本的な違いもあるのではないだろうか? もちろん、そのどちらか一方が正しく、他方が間違っているとかいうことなのではない。が、その「違い」の有無とそのありようについては探ってみる価値があると私は思う。