楽譜を読んでいると、「あれ、本当にこの音であっているのかな?」と思わされる箇所に出くわすことも稀ではない。今日もまた。それはプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番第1楽章、第19小節、右手の最初の音である。同様なパッセージが3回出てくる中で、1回目と3回目がF#なのに対して(1回目は次の動画の0'15"あたりから:https://www.youtube.com/watch?v=AFCeeLXdSQs)、この2回目の箇所だけがG#なのだ(同じ動画の0'39"あたり)。そこで、はじめに読んでいた全音版以外の版、すなわち、Boosey & Hawkes版と旧ソ連の全集版で確認してみたが、いずれも2回目はG#になっている。
もちろん、あるパッセージを繰り返す際、敢えて音を変えるということは十分ありうる。だから、件の箇所もそうされている可能性は否定できない。そこで、その理由を考えてみよう―― まず、この2回目のパッセージのみ、その直前の音が異なっている。それは件のパッセージ第1、3回目のはじめの音と同じF#である。すると、2回目のはじめもこの音にしてしまうと同音連打が生じてしまう。そこで、おそらく、プロコフィエフはそれを嫌って、隣のG#を用いたということではなかろうか。
ともあれ、そのうちHenleからきちんとした校訂版が出るだろうから、そこでの判断を持つことにしよう。