2024年7月28日日曜日

意外にロマン的?

  昨日話題にしたギーゼキングだが、彼が属する時代の演奏様式はふつう、「新即物主義」と呼ばれている。これはそれ以前のロマン的(主観的)な演奏様式の反動として出てきたものだとされている。なるほど、確かに彼以前のピアニストの録音を聴くと、楽譜の取扱いは格段に自由であることがわかる(ただし、そこでの「自由」とは決してたんなる「好き勝手」なのではない。そこにもまた、ある種の約束事のようなものがあり、その範囲内での自由なのである)。

ところで、そのギーゼキングとそれ以降の時代のピアニストの演奏を聴き比べてみると、驚くべきことに彼の方がロマン的に聞こえる。「新即物主義」の音楽作品が書かれたのは1920年代だが、演奏様式はそれと完全に歩調を合わせていたわけではないようだ。むしろ、それ以降の時代の演奏の方が「即物的」であり、現在の演奏もその延長線上にあると言えよう。果たしてその流れをHIPの実践がどの程度変えることになるのか、大いに興味が持たれるところではある。