2020年12月12日土曜日

偶然の出会いに身を任せ

書物を渉猟する楽しさは格別だが、偶然の出会いに身を任せるのも悪くない。ご近所図書館でたまたま目についた本というのは、自分では積極的に探さない類の本であることが多く、それだけに意外な発見や驚きがあって、これもまた楽しい。

先日、そうした借りてきた1冊が山崎浩太郎『演奏史譚 1954/55――クラシック音楽の黄金の日々』(アルファベータブックス、2017年)。クラシック音楽(の演奏とディスク制作)の時代の転換期を当時外遊した2人の評論家、山根銀二(1906-82)と吉田秀和(1913-2012)の紀行文を軸に描き出したものだ。もはやたんに演奏の良し悪し(好き嫌い)を述べるだけの「音楽評論」が意味をなさない現在にあって、同書は十分に「読ませる」ものを持っており、私は楽しめた。

若いクラシック音楽の愛好家は果たして本書をどのように読むのだろうか。私(著者より3歳年下)のような者にとっては、同書で取り上げられている演奏家やディスクはまだそれほど遠い過去のものではなく、何かしら親近感を覚えるのだが、もっと下の世代の読者にとっては、それこそ遙か昔の出来事であろう。それだけに、そうした若者の感想を聞いてみたい気がする。