ご近所図書館(現在、コロナの影響で年内臨時休館中)で先日、(例によって)たまたま手にしたのがローラン・ビネ(高橋啓・訳)『言葉の七番目の機能』(東京創元社、2020年)という小説だ。この作者のことは全く知らなかったが、妙な題名に惹かれて手にとってみると、哲学者ロラン・バルト(1915-80)が「殺された」ことにされ(実際の死因は交通事故死)、そこから話が展開する(他にも実在(した)人物があれこれ登場!)何とも面白そうなミステリー小説だった(http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488016760)。これで年末年始は楽しめそうだ(学生時代、必要があって、バルトのテクスト論関係の文章に読み耽ったことが懐かしく思い出される。今や彼の3巻本の全集は書架で埃をかぶっているが……)。
音楽家でこうした虚実入り乱れた小説を書くとすれば、誰を主人公にしたら面白いだろう? あまりとんでもない筋にすると「名誉毀損」の問題が生じ、これはさすがにまずい。さりとて、ありきたりの話ではつまらない。やはり、その人物の本質をどこか捉えつつも、同時に意外性を持たせ、その両面で読者を納得させられそうな物語の「ネタ」になりそうな人物とは……。そうした音楽家は少なからずいるはずなので(私なりに何人かの名前がぱっと浮かびはするが、敢えてここではその名はあげずにおく。そもそも、自分ならば「小説」のかたちにはせずに、「評伝」っぽい読み物を書くだろう)、この主題に取り組んでくれる奇特な小説家の創作に期待しよう。