作詞家・小説家(その他諸々)のなかにし礼氏が亡くなった。またしても昭和が遠くなったように感じられる。
氏が書いた歌詞でヒットした曲は実に多く、私は必ずしも歌謡曲には詳しくはないが、それでも氏の名文句がいくつも頭にすり込まれている。それほどに巷に「なかにし礼」作詞の歌が溢れていたわけだ。
が、初めて歌詞を意識的に聞いて「これは凄い!」と感じたのが名作《恋のフーガ》だ。随分古い曲だが、学部学生時代、バイト先でかかっていた有線放送で知り、歌詞、曲(やはり名作曲家の宮川泰の作)ともにぐっと引きつけられたのである。一度聞いたら「忘れられないの、あの曲が好きよ」(おっと、これは岩谷時子+いずみたくの名曲《恋の季節》の一節のパロディ)となった次第。それ以来、「なかにし礼」作詞の曲には注意して耳を傾けることとなった。氏の詞はとにかく、語の選び方が絶妙だ。表現が実に多彩で、硬軟を巧みに使い分けて、コンビを組んだ曲とともに聴き手を引きつける。
何年か前、たまたまご近所図書館でなかにし氏が書いた小説を何気なく手にとって読んでみたところ、これがまことに面白い。自伝的要素を絡ませた作品が多いのだが、いずれも氏の作詞の機微や秘密に触れるようなところがあり、読みながら数々の名作が思い出されたものである。そのうち、誰かなかにし礼の作詞について一書を著して、その秘密に迫ってくれないものだろうか。
ともあれ、この偉大な言葉の魔術師に哀悼の意を表したい。