昨年末、とうとうこの国でもシャルル・ケクラン(1867-1950)の楽譜が出版された。まことに喜ばしい限りである。ずっと気になっていたのだが、先日、ようやく現物を手にとって見ることができた。それは次のものだ:https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=416400。
ケクランは多作家であり、作風もいろいろ移り変わっているので、これらの作品からのみケクランという作曲家を判断するわけにはいかないが(かく言う私にも、まだまだケクランの正体はわかっていないのだが……)、その片鱗は知ることができるわけで、彼の音楽にまだ触れたことのない人には大いにお勧めしたい。
幸い同楽譜の解説は充実しており、これから「ケクランの森」に分け入っていこうとする者にとっては格好の手引きとなろう。できれば、音楽之友社には引き続きケクラン作品を出し続けて欲しいものだ(次は《ペルシャの時》あたりを! あるいは、新旧のソナティヌ集全曲も悪くなかろう)。
ところで、同書で「校訂協力」をしている川上啓太郎氏は音楽理論の専門家でケクラン研究者だとのことで、今後の研究成果が大いに期待される。いや、作品研究もさることながら、ケクランの種々の「書式」の教本も(詳細な註をつけて)翻訳してもらいたいところだ。
また、内藤晃氏の解説の中では言語のリズム(英・独語と仏語のリズムの違い)と音楽表現の関係についても触れられていたが、この点も好ましい。自分も近年、強い関心を抱いている(がために、ここでも何度か話題にしている)この問題だが、やはり「実践」の現場でもっと広く深く探られるべきものだ。その意味で楽譜、しかも器楽曲の解説中でこの問題に注意が喚起されているのはけっこうなことだと思う。