何かのアイディアが閃くのは、十中八九、机に向かって「いない」ときだ。散歩中、電車に乗っているとき、そして、床についているとき等々。とにかく、何かを懸命に考えていないときにこそぱっと閃くのだ。
昨晩もまさにこれから眠らんとしていたときに……。とはいえ、私ごとき者の「閃き」などそうたいしたものではない。が、1つの「行き詰まり」を打開しうる案ではあった。それは何かといえば、書きあぐねていた『音楽の語り方』を独立した書にするのはやめにして、『音楽する人のための音楽美学』の中に1つの章として収めるという案である。
元の『語り方』ではそれが関わる「音楽行為の場」についても論じるつもりだったが、そうした「場」はあくまでも論の背景にすぎず、その「場」の中で「語り」をどう用い、つくりあげていくかが問題だった。が、『美学』ではその関係が逆転し、「語り」は「場」の構成要素として論じられることになる。つまりはある意味で『演奏行為論』の拡張版ということになるわけだ。もちろん、前著よりもマクロ、ミクロの両面でもっと緻密に、それでいて平明に、そして、切り口をかなり変えて論じたいと思っている。これは何だかうまく書けそうな気がする……が、どうなることやら。