ご近所図書館で中村紘子の最後の本、『ピアニストだって冒険する』(新潮社、2016年)を借りた。この人の筆の冴えは(もしかしたらピアノ演奏以上に)実に見事で、最後まで一気に読んでしまった。
もっとも、中村が描き出すピアノ(音楽)の世界は自分には一切無縁のような感じがしてならず、別世界のお話にしか思えない(が、そのごく狭い「世界」の中で生き抜こうとする人たちにとっては、たぶん、なかなかに建設的で有益な事柄が述べられているとようではある)。まあ、だからこそそれを気楽に楽しく読めるのだろう。とにかく、この人の筆力は凄い。未読の本もこの機会に探して読んでみよう。
他に興味深かったのは、著者の知人の音楽家に関するいろいろなエピソードである。中でも矢代秋雄(1929-76)との最後の電話の話には胸が詰まる思いがした。