サン=サーンスの晩年のヴァイオリン曲として2曲の《エレジー》がある。1つは作品143(1915)、もう1つは作品160(1920)で、後者は死の前年の作だ。私はとりわけ後者が好きで、これを聴くたびに胸の高鳴りを覚えるとともに、些か切ない気分にもなる(https://www.youtube.com/watch?v=olnknaA9THA)。
この作品160の楽譜には献呈名とは別に「アレクシス・カステイヨンの思い出に」と記され、さらには彼が生前に奏でていたフレーズを用いた旨が記されている。サン=サーンスはこの友人が亡くなってから半世紀近くのちになってこの何とも切なくも情熱的なエレジーを書いたわけだが、そのとき彼の胸中に去来したものは何だったのだろうか(なお、この曲を含むサン=サーンスのヴァイオリン小品集が今年に全音から出ている(http://shop.zen-on.co.jp/p/304016))。
そういえば、私にも書きかけのエレジーがある(ピアノ伴奏のサクソフォーンのための曲で、ヘ長調!)。夭折した甥の思い出に寄せるものだ。だいたいは頭の中でできあがっているのだが、なぜかまだ紙の上に記していない。これは忘れないうちに書き留めないといけない。
昨年の今頃はローゼン本の翻訳の校正(修正)作業で四苦八苦していたなあ。「出口なし」の気分に耐えながらすべてを1人で行っていたこの孤独な作業は最終的に「四校」にまで及び、これに1年近くを費やした。その間に初稿はほぼ別物になってしまったが、きちんとしたものをつくるという意味ではそれでよかったのである。が、これは今だから言えることで、やはりそのときは辛くて仕方がなかった。もう当分翻訳はこりごりである(……などと言いながらも、この先、訳してみたいものがいくつかないではない)。