2021年8月8日日曜日

《魔笛》の合唱体験

 昔々、一度だけオペラの合唱で歌ったことがある。学部学生時代、教育学部音楽科の歌の教授が主宰していた団体の公演でのことだ。その団体は「私的な」ものだったにも関わらず、教授は有無を言わさず度重なる練習と1回の本番に学生を駆り出した(しかもロハで。今ならばアカハラとして問題になるかもしれない)。が、これがけっこう楽しかった(ので、今は亡きその教授に対して悪い感情は持っていない。しかも、この先生が授業でモンテヴェルディやジェズアルドを取り上げてくれたおかげで彼らの音楽の魅力をまさに身を以て知ることができたので、大いに感謝してさえいる)。演目はモーツァルトの《魔笛》である(本当ならば《魔法の笛》と書きたいところだが、このときはそう表記していたのでここでは妥協する)。

 その《魔笛》だが、原語ではなく日本語訳による上演だった(伴奏はピアノと電子楽器)。はじめは訳詞で歌うとなんだか「間延び」しているように感じられたが、練習を重ねるうちに次第に慣れてゆき、しまいには自然に歌えるようになった。自分が歌うのは合唱だけだが、当然、他の部分も練習時に聴いていたわけで、おかげでこの名作オペラを「体感」することができたのはありがたかった。

 私は「聴き手」としては必ずしもオペラには好意的ではなく、仕事関係以外で自分からわざわざ観に行ったことなど、これまでに一度もない。が、だからといって、オペラなるものに全く無関心だというわけでもないのは、1つにはこの1回限りの「合唱」体験もかかわっているのかもしれない――と、今日、ブゾーニが2台ピアノ用に編曲した《魔法の笛》序曲をCDで聴いていたとき、ふと思った。