これまでになされた「音楽美学」の膨大な議論の中から「音楽する人」にとって必要最小限の問題を取捨選択し、「カタログ」をつくろうとしても、まずうまくいかないだろう。「あれも足らない、これも足らない」ということになるか、さもなくば「あれも不要、これも不要」ということになるだろうから。
そこで、視点を変えてみる。すなわち、「音楽する」ことのもっとも単純なかたち、すなわち、「一人の者が何かの音楽をつくる/奏でる(歌う)/聴く」という場面を想定し、そこで生じる問題を検討することからはじめるのだ。もちろん、音楽は「一人」で完結するものではないから、問題はすぐに「他者」との関わりを含むものとなる。が、その際にも実際の「音楽する」ことに合わせて注意深く、少しずつ問題の範囲を広げていくこととし、決していきなり抽象的かつ観念的な領域に問題を飛躍させないようにする――というのが、『ミニマ・エステティカ』の現時点での戦略である。さて、うまくいくかどうか。