2021年8月12日木曜日

イギリス海岸

  ご近所図書館でたまたま尾原昭夫『宮澤賢治の音楽風景――音楽心象の土壌』(風詠社、2021年)という本が目にとまり、借りてきて読んでみた(https://www.amazon.co.jp/%E5%AE%AE%E6%BE%A4%E8%B3%A2%E6%B2%BB%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E9%A2%A8%E6%99%AF-%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E5%BF%83%E8%B1%A1%E3%81%AE%E5%9C%9F%E5%A3%8C-%E5%B0%BE%E5%8E%9F%E6%98%AD%E5%A4%AB/dp/4434288725/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E5%AE%AE%E6%BE%A4%E8%B3%A2%E6%B2%BB%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E9%A2%A8%E6%99%AF&qid=1628752830&s=books&sr=1-1)。宮澤賢治と音楽との関わりが当時の社会・文化の背景も踏まえて(深みには欠けるが)手際よくまとめられているなかなかの好著である(いろいろ楽譜が載っているのも便利だ。なお、調べてみると、その後続編も出ていた。これも是非、読んでみたい)。

 同書の中には「イギリス海岸」(https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/4417_9667.html)の紹介もあり、恥ずかしながらはじめてその光景を(もちろん賢治が見たものとは同じではないものの)見たが、これを「イギリス」云々と見立てる想像力には感服する。考えてみれば、そうした無邪気な(だけでないことは、上のリンク先にある賢治の文章を読めばわかるが……)「見立て」の力は子供ならばほぼ誰にでもあったものであろう――それこそ、周りの何でもない場所を遊びの中で何かの「物語」の一コマにしてしまい、ありふれた日常をつかの間破ってみせる力が。だが、多くの人は大人になる過程で、常識や分別がそこに蓋をしてしまうのか、あるいは邪気が育ったためか、とにかくそうした力をいつしかなくしてしまうようだ。その点、賢治はこの想像力を保ち続けたようで、さればこそ「銀河鉄道の夜」をはじめとする数々の名作をものすることができたのだろう。

 今やコロナで遠方への旅など望むべくもないので、私も「イギリス海岸」式に近場の風景を何かに見立てて想像の世界での旅を試みてみよう。すっかり錆ついてしまった想像力を何とか働かせて。