この季節に突如として現れて、忽然と姿を消す彼岸花。何とも不思議な花であり、子供の頃は不気味さを覚えていたものだが、あるときからその出現を毎年心待ちするようになった。
その彼岸花をモチーフにした名曲が八村義夫(1938-85)の《彼岸花の幻想》(1969)だ(https://www.youtube.com/watch?v=unLdShaqBtM)。いかにもこの作曲家らしい表現主義的でありながら耽美的でもあるまさに「幻想」的な音楽である。およそ半世紀前の作品だが、今日でもそれなりに弾かれているようだ。
面白いことにこの曲が収められているのは『こどものための現代ピアノ曲集』(編集・用法学園子供のための音楽教室、春秋社、1969年)という曲集であり(私の手元にあるものは1984年の第6刷で、「1985.11.5」と購入日が書き込まれていた)、ということはつまり、元々は「こどものために」書かれた作品だということだ。が、どう見ても「こども」向けの内容ではない(もちろん、こどもが弾いて悪いというわけではないが……)。
この《彼岸花の幻想》に限らず、八村作品にはどれも「自分の身を削って書いた」ようなところがある。彼の早世は惜しんでも余りあるが、そうした作品を書く人が長生きできたとも思えない。また、遺された作品が人々に愛でられているうちは、彼はまだ「生きている」のだとも言えよう。ともあれ、私も八村作品をこれからも愛で続けたい。