かつてレコード盤は高級品、贅沢品だった。たとえば、私が生まれた1966年で調べてみると大卒の平均初任給が24900円だったのに対してLP盤は2000円前後だったから、驚くなかれ、何と前者のおよそ8%に相当した(2019年の大卒平均初任給は212000円だから、その8%というとおよそ17000円ということになる)。となると、そう気軽に購うわけにはいかないわけで、ここに「音楽評論家」という人たちの存在意義の1つがあった。すなわち、「高価な商品に関する情報を提供する者」として、消費者にとってはそれなりにありがたい存在だったわけだ(もちろん、製造・販売者側にとっても)。
ところが、その後、レコードの実質的な価格は下がり続け、CD時代(ただし、初期は除く)にもなると、新譜はともかく、減価償却の済んだ再発売盤ではほとんど「投げ売り」にも等しいものとなった。すると、消費者にとって買い物の多少の失敗は何ら問題とならず、しかも、今や種々の情報はインターネットでごく簡単に手に入り、また、情報や意見のやりとりもできるとなると、自ずと「商品情報提供者としての音楽評論家」の存在意義は低下せざるをえなかっただろう。実際のところ、現在、そうした評論家の言説が消費者の購買行動にどのくらい影響を及ぼしているのだろうか?