2020年9月23日水曜日

『メッセージ・フロム・G』

  少年時代、レコードのカタログにまことに怪しげなものを見つけ、その中身が気になった。ばら売り(2枚組3セット)のアルバム名は『メッセージ・フロム・G』。フリードリヒ・グルダの3夜からなる連続演奏会のライヴ録音である。普通のクラシックの作品だけではなく、グルダの自作もいろいろ収められたもので、その第3夜は「懐かしいG.の訪れ」と題されたもので、全くもって怪しい雰囲気が漂っていた(そのLPジャケットの画像が見つかったのであげておこう:https://www.snowrecords.jp/?pid=89822947)。

 が、当時は1枚の廉価版LPを購うのにすら一大決心をしていたくらいで、他に聴きたいものはいくらでもあったので、結局この『メッセージ・フロム・G』には手が出ずじまいだった。とはいえ、ずっとそれが気になり続けたのは確かで、CD時代になってからは「どこかから再発売されないかなあ」と淡い期待を抱いていたのだが、それは叶わず、どんどん時が過ぎていった。

 ところが、今から5年前(ということは、件のLPの存在を知ってから何と35年後!)に突然、『メッセージ・フロム・GCDで復活したのである(https://www.amazon.co.jp/MESSAGE-G-FRIEDRICH-GULDA/dp/B0157JKYKE/ref=sr_1_2?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=gulda+message&qid=1600845067&s=music&sr=1-2-catcorr)。もちろん、迷うことなく購い、聴いてみた。いや、凄い。個々の演奏もさることながら、演奏会全体のありようにとにかく圧倒された(この録音には拍手だけではなく演奏の合間のグルダの語りもきちんと収められているので、自分も客席で聴いているような気分に浸れるのだ)。

 確かにグルダが弾くモーツァルトやベートーヴェンは素晴らしい。が、彼を「演奏解釈者」に局限してしまうと、「音楽家グルダ」の本当に面白い部分は味わえないだろう。そして、『メッセージ・フロム・G』のような演奏会でのグルダのパフォーマンスのありよう、ひいてはそこで示されているパフォーマティヴィティは、今やどんどん衰退しつつあるクラシック音楽の演奏家にとっていろいろと参考になる点があるはずだ。