二ヶ月ほど前、たまたま書店でエーゲルディンゲルの名著『弟子から見たショパン』の増補最新版が目にとまった(https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=131460)。同じ訳者による原著改訂版の邦訳が同じ音楽之友社から出たのが1983年。ついで、原著第3版(1988)邦訳が2005年に出されていたわけだが、この出版事情の厳しい折、まさか「最新版」まで刊行されるとは思っていなかったので、これはうれしい驚きだ。
私がジム・サムスンの『ショパン 孤高の創造者』(春秋社、2012年)を訳していたとき、必要があって『弟子から見たショパン』の原本(2006年刊)を手に入れたのだが、邦訳(2005年版)と見比べてみると、どうも何か妙な感じがした。そこできちんと見直してみると、「増補・改訂」されていることに気づく。内容が増やされていただけではなく、邦訳に含まれていた「ショパンのピアノ奏法草稿」が削られているではないか! が、これには理由があった。つまり、エーゲルディンゲルはその「草稿」に詳しく解説を付けた本を1993年に刊行していたのである。
今回新たに出た邦訳新版は原著2006年版の訳だが、親切にも「草稿」はそのまま収められている。ともあれ、同書を全く未読の人はもちろん、1983年版はもちろん、2005年版の読者にとっても、2020年版は大いに歓迎すべきものであろう。