FM放送でラジオ・ドラマを聴いているとき、もちろんドラマ自体を楽しんではいるのだが、それとともにもう1つ別の楽しみが私にはある。それは出演者の「声」だ。いわゆる美声に限らず、さまざまな声の質や響きに触れることが面白いのである。中には理屈抜きにその声そのもの(ここはロラン・バルトにならって「声の肌理」と言った方がよいかもしれない)に魅せられるということも。
たとえば、先日聴いたドラマ(https://www.nhk.or.jp/audio/html_fm/fm2021025.html)でも、主役の男女2人の声はそれぞれに私の耳(と心)に実に心地よく響き、ドラマの筋(もよかったが、それ)とは別の歓びをもたらしてくれた(なお、その2人のうち1人は歌手だった:https://www.youtube.com/watch?v=1416Vacd-1c)。
ところで、「顔は笑っているのに目が笑っていない」 ということはしばしば言われるが、同じことは「声」についても言えるのではないだろうか。すなわち、いかにも聞き手にとってよく感じられる語り口であっても、どこか根本の部分でその「調子」を裏切っているような(言い換えれば、別の本音をわずかながらも窺わせるような)響きや表情を声が持つ、というようなことが。