ショパンの前奏曲集作品28は「小エチュード集」でもある(この点でもショパンはJ. S. バッハの《平均律クラヴィーア曲集》の前奏曲を踏襲していると言えよう)。各曲の長さが短く、用いられている演奏技巧の種類も曲ごとに限られているので、作品10と25のエチュード集の導入教材としてうってつけであろう。もちろん、音楽性を養うという意味でも。それゆえ、さらにもう1つ形容詞を追加して、「詩的小エチュード集」とでも呼びたくなるところだ(それだけに、なかなかよい演奏に出会えないのが残念なところ)。
ショパンの前奏曲集以後、「24の前奏曲」をいろいろな作曲家がものしているが、この完成された小宇宙 に匹敵するものはないようだ。もちろん、別な意味で面白い曲集はありはするものの……(……とはいえ、もしかしたら、「暗黒大陸」たる19世紀のピアノ音楽を精査したら、ショパンに引けを取らない「前奏曲集」が出てくる可能性もゼロではなかろう)。