先日、服藤恵三『警視庁科学捜査官――難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』(文藝春秋、2021年)という本を読んでいたとき、文中に「伊藤隆太」という名を目にし、「おや、この名前には見覚えがあるぞ」と思った。この人物は著者が警視庁に在職しながら大学で学位を得るべく学んだときの指導教員なのだが、なかなかの人格者として描かれていた。そこで興味を持ち、何とか記憶の糸をたぐり寄せると、秋山邦晴『日本の作曲家たち』の下巻(音楽之友社、1979年)所収の「作曲家名鑑」で取り上げられていたのを思い出す。そう、医学者にして作曲家だったのである。同書によれば「一九二二年(大正11)年呉市生まれ。東大医学部卒、池内友次郎、高田三郎らに作曲を師事。昭25年音楽コンクール管弦楽部門第一位入選」とあった。他でも調べてみたが、この人に間違いないようだ。
では、この伊藤隆太はどんな音楽を書いたのか。手っ取り早くYou Tubeで検索してみると、次の音源が見つかる:https://www.youtube.com/watch?v=lY6lI6Q7YHc。なかなかよい曲ではないか。他にもないかと探してみたが、残念ながら見つからない。大学の図書館で楽譜を検索してみても、このピアノ曲と歌曲が少しあるばかり。いずれ他の作品も見て(聴いて)みたいものだ。
さて、前掲書にはその伊藤氏のまことに味わい深い言葉があげられている。曰く、
人にはそれぞれ、行き着くレベルがある。すぐに伸びる人。ゆっくり伸びる人。いろいろいるよ。でもね。みんなそのうちプラトー(停滞期)になり、必ず壁にブチ当たるんだ。
この壁をすぐ乗り越える人。なかなか乗り越えられない人。やっぱりいろいろいるよ。この時期が長いか短いかで差が付いていく。でも必ず乗り越えられる。どうしても乗り越えられなかった人は、その高さで生きる人だったんだよ。人生はうまくできてるね(前掲書、275頁)
いや、まことにごもっとも。ちなみに、この伊藤氏には『シーベルトの香炉』(近代文藝社、1987年)という随筆集がある。これもいずれ読んでみたいものだ。『