ブラームスは自身の管弦楽曲や室内楽曲をピアノ4手、もしくは2台ピアノのために編曲している。それらには原曲とはまた違った味わいがあるし、管弦楽曲からの編曲の場合には原曲の構造がすっきり見通しやすくなるという長所もある。
ところが、それら一連の編曲の中に、1曲だけ、些か不思議なものがある。それは《ドイツ・レクイエム》作品45のピアノ4手用編曲だ。曲名にあるように、これは声楽曲であり、しかもかなり長大である(実はそうした編曲としてはもう1曲、《勝利の歌》作品55があるのだが、こちらはかなりマイナーな曲である)。これをピアノ4手で演奏すれば、音楽の感じはほとんど別物と行ってもよいほどに変わってしまう:https://www.youtube.com/watch?v=5Og9OKzgXGw&list=OLAK5uy_m8TVsLPfLhOHMVyZfKbTXGrwkCscE9MXk。
もっとも、作曲当時は今とは異なり、《ドイツ・レクイエム》の実演を耳にできる機会はごく限られていたであろうし、もちろん、録音もない。となれば、連弾編曲版でもよいからこの曲に触れたい思う聴き手にとっては有益なものだったろう。
だが、現在ではわざわざこの曲をピアノ連弾版で聴く必要はあるまいし、そもそも1時間近くそれを聴き続けるのも難しかろう(事実、私は途中で挫折した)。とはいえ、抜粋ならば原曲との違いを楽しめるかもしれない(私も最初の2曲目くらいまでは「異次元体験」を味わえた。
[追記]はじめにリンクした音源は手持ちのCDとは異なるものだったが、その後、同じ音源が見つかったのでそれに差し替えた。この演奏者たちはブラームスの4手ピアノ曲、2台ピアノのための作・編曲すべてを録音しており、演奏もとてもよい。上記「異次元体験」もこの2人の演奏で味わったものだ。それゆえ、第3曲以降も別の機会に試してみよう)。