2020年8月25日火曜日

ラフマニノフの第3協奏曲、2つのカデンツァ

  ラフマニノフの第3協奏曲第1楽章には2つのカデンツァがあるのはご存じの通り。1つはかなり簡潔なものであり、こちらがいわば「正規版」だ。それに対してもう1つのossia(イタリア語で「1 つまり、すなわち 2 または」という意味の語で、音楽では後者の意味で用いられ、別の選択肢を表す)は重厚長大で「大カデンツァ」と一般に呼ばれるもの(ここには露骨にアントン・ルビンシテインの第4協奏曲の影響が現れている)。

 作曲者自身の録音では正規のカデンツァが弾かれており、彼と親しかったホロヴィッツもその流儀を踏襲している。が、「大カデンツァ」はなんと言っても派手なものだから、こちらを選ぶピアニストもそれなりにいる(たとえば、アシュケナージなど)。

 楽譜に書かれている以上、どちらを選ぼうとかまわないといえばかまわないのだが、私見ではやはり正規のカデンツァを選んだ方がよいと思われる。というのも、カデンツァ終結部は両者共通なのだが、正規版はそこにいかにも自然に収まってうまく山場を作っているのに対し、大カデンツァはその前に派手に盛り上げるものだから、その終結部との繋がりが今ひとつよくないのだ。作曲者が大カデンツァを正規のものとしなかったのにはやはりそれなりの理由があるのではなかろうか。