2020年8月13日木曜日

「?」な記譜法

  武満徹の初期の作品をしげしげと眺めていると、時折、記譜法に「?」なところが見つかる。たとえば、《遮られない休息》の第1曲ではところどころ複数の声部間で音価の帳尻が合っていなかった(あるいは、そのように見えた)り、スラーを書けばよいところで連桁を用いているがために却って譜読みが難しくなっていたりする(私が見ているのは音楽之友社版だが、もしかしたらサラベール社版では改められているのだろうか?)。また、第2曲や《ピアノ・ディスタンス》では「1小節=3秒」という記譜の仕方がなされているが、その小節のほとんどできちんと音価が記されている以上、これも連符を使った方が格段に譜読みしやすい。いずれにせよ、この時期の武満の楽譜はデザインとしては美しいかもしれないが、書き方としてはまだいくらか未熟なところがある(そういえば、もはや初期作品ではないが、名作《テクスチュアズ》のコントラバス・パートにもこの楽器の音域外の低いB音が含まれている)。が、それは「探求」精神の表れだとも見ることができる。そして、私は後年の「成熟」した書法よりも、この時期の武満作品を好む。