2020年8月31日月曜日

「名曲」の十分条件

  広く認められている「名曲」の条件としては「作品がよくできている」というのは必要条件ではあっても十分条件ではない。では、その十分条件は何か。それは演奏者なり聴き手なりが自分のレヴェルに応じて作品を楽しめるような「間口の広さ」を持つことだ。「わかる人にしかわからない」だけでは、いかに凄い作品であっても「名曲」にはなれないのである。

 たとえば、ベートーヴェンの第9交響曲。これは実のところ何とも複雑で、そう簡単に音楽のありようをつかめる作品ではない。それこそ、かなり西洋音楽のことがわかっている人にとっても組み尽くせない内容を持っているのだ。が、だからといって、さほど音楽に詳しくない人でも十分に楽しむことができるものでもある。それこそ「歓喜の歌」を口ずさむだけであったとしてもだ。

 「名曲」を楽曲分析し、その内容を説明することは訓練さえ積めば、そう難しいことではない。が、上で述べたような意味での「名曲」の「間口の広さ」の内実、つまり、「名曲の名曲たる所以」をきちんと説明することはそう簡単ではあるまい。