2020年11月11日水曜日

ブラッハーの交響曲

  ボリス・ブラッハー(1903-75)の音楽を私は好むが、なかなか音で聴ける機会がない。実演はもちろん、録音もあまりないので、仕方がないから楽譜を眺めている(幸い大学の図書館に管弦楽曲のスコアがそれなりに揃っているので。ブラッハーに学んだ人が以前、勤めていたからだろう)。

 先日もそのブラッハーの《交響曲》(1938)のスコアを図書館から借りてきて、つらつらと眺めていた。実に風通しの良い音楽である。この曲が書かれた1938年、ドイツがどういう状況にあったかを思えば、なおのことその時期にこうした作品が描けたブラッハーの精神のありように関心を持たずにはいられない(マイケル・H・ケイター『第三帝国と音楽家たち――歪められた音楽』(明石政紀・訳、アルファベータ、2003年)によれば、ブラッハーはナチス時代を体制に迎合せずに乗り切ったという)。

 すると、やはり音を聴いてみたくなるのが人情。そこで、ダメ元でYou Tubeを検索してみると、何とあるではないか!:https://www.youtube.com/watch?v=km9i7uJsMyw

いや、これはありがたい。さっそく聴いてみると、スコアの眺め通りにすばらしい音楽だった。さて、作曲者と同年生まれのアドルノならば、この曲をどう評しただろうか(こうした類の音楽は彼の眼中にはなかったろうが……)。たぶん、否定的な評価を下しただろうが、むしろそこにこの作品の美点が「裏返し」に示されることになったのではないだろうか。