ある時期以降、文学や哲学その他の分野で「古典新訳」どんどんなされているが、音楽はその流れに乗り損ねている(のか、はたまた乗せてもらえないのか……)ようだ。が、新たな装いで出てもようさそうなもの、あるいはまだ未訳のもので紹介されてしかるべきものはいろいろあるのではないか。たとえば、ハンスリックの『音楽美について』やブゾーニの『音芸術の新しい美学の草案』などは新訳が出れば、それなりに読まれるだろうし、シューマンの評論もこれまでのような抄訳ではなく全訳されれば、喜んで迎えられるのではないだろうか。というわけで、各々の専門の研究者の奮起とそれに出版社が応えてくれることに期待したい(かく言う私自身はしばし翻訳からは遠ざかりたい。自分の本が書きたいからだ。が、生きているうちにあと1冊くらいは〆切に追われず、自分が心の底から訳してみたいものにゆっくりと取り組んでみたいとも思っている)。