2020年11月5日木曜日

大人を納得させるクラシック音楽の入門書

 巷には初心者向けの入門書や手引き書が数多ある。が、たとえばクラシック音楽について、全くの子供ではなく、大人を納得させ、新規の顧客にまでできる(これはクラシック音楽の生き残りにとって、なかなかに重要な課題である)ほどの迫力を持つような入門書にはお目にかかったことがない。

 大人になってから「クラシック音楽でも聴いていようか」と思う人は、まず、他のジャンルの音楽にすでに親しんでいるだろうから、その点を押さえるべきなのだが、それはクラシック音楽の「書き手」にはなかなか難しい。というのも、そうしたものを書くには種々の異なるジャンルの音楽に通暁している必要があるからだ。西洋芸術音楽のことしか知らない、あるいは、他のジャンルの音楽のことを知ってはいても、その程度がそれほどのものではないのならば、読者が「本当に知りたい」ことに答えるのは難しかろう。

 だが、それは「入門書」を一人で書こうとするからいけないのであって、異なるジャンルの専門家同士が協力すれば、問題は解決するだろう。その場合、たとえば、1冊で「クラシック音楽/ジャズ入門」を兼ねることとし、3部構成でそれぞれの音楽について1部ずつを当て、最後の部分で2人の著者が対談をして両者の違いと面白さをアピールするかたちにしたらどうだろうか。きっと面白い、読み応えのある、そして、「ジャズを知りたい」クラシック音楽愛好家と「クラシック音楽を知りたい」ジャズ愛好家の両者に喜ばれる本ができるのではないだろうか。

 

 ちなみに、私が不慣れなジャズでしばしばお世話になっているのがジャズ評論家の小川隆夫氏の著作だ。他の人の書いたものもいろいろ読んでみたが、やはり氏の著作がもっとも面白く、楽しく、かつ、勉強になる。しかも、氏の文章には論じる対象へのしかるべき「批評」や「批判」、そして、何よりも愛情と尊敬の念はあるが、独善的な「否定」、自己顕示やモノローグは一切なく、その点もすばらしい(クラシック音楽の評論家でそのような人として私に真っ先に思い浮かぶのは濱田滋郎氏だ)。