2024年8月28日水曜日

なぜ対位法教本には課題への解答例がついていないのか?

  和声法の教本にはほぼ例外なく課題に愛する解答例がついている。だから、独習も十分可能だ。ところが、対位法の教本はそうではない(課題の解答ではない「範例」は載っているが……)。なぜだろう? 独習は不可能で、手取り足取りではないと教えられないからだろうか。それとも何かもっと別の理由があるのだろうか。

 さて、実はそうした対位法教本で、私の知る限り唯一の例外がある。それはケクランの『対位法』だ(訳書はかなり前に絶版になっているが、これは惜しい。新訳版が出される価値は十分にあろう)。彼の『和声概論』もそうだが、課題の解答例には事細かに説明がつけられている。ただし、それには理由がある。つまり、ケクランは最初歩の課題にさえあれこれ創意工夫を発揮しており、到底初学者には考えつきそうもない解答になっているからなのだ。とはいえ、それでも「解答例なし」の教本よりは格段に勉強になるのは確かだ。というわけで、私ももう一度これで勉強し直してみようかなあ。

 シェーンベルクの『対位法』(ただし、これは彼の死後に弟子が編集したもの。なお、これも邦訳は絶版)もなかなかに教育的だ。そこには課題こそないものの、範例が多く載せられており、詳細な解説がついている。「作曲への応用」と題した章があるのもよい。そして、こうした教本からもシェーンベルクの音楽観の一端を伺うことができて興味深い。