2025年2月11日火曜日

ヘンレ社のシェーンベルク『ピアノ曲全集』

  昨年、シェーンベルクの生誕150年に合わせてだろうか、ピアノ曲全集の楽譜がヘンレ社から出ている。同社はUrtext出版の老舗だが、近年、この作曲家の作品と取り上げている。それは版権が切れたこととも無関係ではあるまい。同じことはプロコフィエフなどについても言えることで、これから20世紀の(版権の切れた)作品がどんどん綿密に校訂された楽譜が出版されていくことだろう。

そのヘンレ版のシェーンベルクピアノ曲集では88頁の楽譜本文に対して註解は28頁にも及ぶ。それだけ注意深く校訂されており、また、そこで指摘すべき問題点を従来の版が持っていたということであろう(同版には元の出版社の版はもちろん、ショット社から出ている『シェーンベルク全集』とさえ異なる箇所があった)。

 もちろん、新しい版が絶対に正しいというわけではない。中には新たな誤りを生み出している場合もあろう。それゆえ、ヘンレ版シェーンベルクも注意深く読み解いていく必要がある。が、とにかく、この版の登場を大いに歓迎したい(なお、シェーンベルクのピアノ曲が1冊に収められたものは――全集版を除けば――これがはじめてだ。ショット社から出ている『全集』に基づく普及版の楽譜はぜか「選集」であり、作品23が抜けていた。たぶん、当時、版権の問題があったのだろう)。

 

 お勉強でスクリャービンのソナタの楽譜をあれこれ見ているが、春秋社から出ている『ソナタ集2』(すなわち、後期ソナタ5曲を収めた巻。私の手元にあるのは2022年の第7刷)には意外にも――というのも、同社の楽譜を私は大いに信頼していたからだが――間違いがあれこれ見つかった(臨時記号やタイの脱落、音の誤りなど、総計26箇所! 検討を要する箇所が2つ)。この複雑な作品の性質上、ノーミスというのはなかなか難しかっただろうが、増刷する際に訂正はできたはずだ。同社はこのところピアノ曲集増刷の際に新装版を出しているが、このソナタ集もその機会に訂正されて欲しいものだ。同社の楽譜を長年愛用し、これからもそうあり続けたいと思っている者として(『ソナタ集1』にも誤記はいろいろ――ざっと見たところで10箇所。そのほとんどは第5ソナタに――あったのだが、すでに出ている新装版で訂正されているかが気になるところ。それにしても、同社の森安芳樹校訂版の精緻さと入念さを思えば、別の編者によるスクリャービン集は些か杜撰だと言わざるを得ない。残念である)。