昔々、エゴン・ペトリが弾くショパンの第3ソナタの録音を聴いていたときのこと。第1楽章の提示部終わり頃に全く知らないパッセージが登場し、一瞬耳を疑う(次の動画の2’ 47”以降:https://www.youtube.com/watch?v=czNm9Zq06c0)。そこで調べてみると、この作品のコルトー版の脚註にヴァリアントとしてあげられているものだった(エキエル版でも註で見ることができる)。しかも、そこでコルトーはこれについて否定的な意見をも述べていたのである。事実、このヴァリアントを採用した演奏をその後、私は聴いたことがない。
ところが、先頃、ついに(予定より6年遅れで)刊行されたBärenreiterr版では、驚くべきことに件のパッセージはヴァリアントとしてではなく、楽譜本文として記されているではないか(ということはつまり、これまで本文に記されていたパッセージがヴァリアント扱いとなったわけだ)。この措置がいかなる理由に基づくものかはまだ楽譜の「註解」を読んでいない(楽譜はぱらぱらと立ち読みしただけであり、注文したものが届くのを待っているところな)ので何とも言えないが、果たしてこれを一般のユーザーはどう受け取るだろうか? たぶん、この「元」ヴァリアントが「本文」に昇格することはないかもしれないが、これを選んで弾く人は増えるかもしれない。要注目である。