2025年3月29日土曜日

シューベルトとクルターグ――現実と非現実の交錯――

  昨晩、ラジオをつけると耳に飛び込んできたのはシューベルトの舞曲。なかなか感じの良い演奏だったので聴き続けると、俄に調子が変わり、現代音楽になった。だが、しばらくすると再びシューベルトに戻り、さらにまたもや現代音楽に。これはなかなか面白い趣向だ。

そこで番組表を調べてみると、演奏はピエール=ロラン・エマールで、「現代音楽」はクルターグ・ジェルジ(1926-。今年99歳!)のものだった。エマールが選んだのはシューベルトの舞曲と相性のよさそうな小曲であり、両者が交互に奏でられると、一方が他方への註釈のように聞こえてくる。そして、いずれの作曲家の音楽でも現実と非現実が交錯しているかのような何とも不思議な感覚がもたらされた。いや、この選曲は実にすばらしい。

エマールというピアニストは一流ではあるが、個人的にはあまり好みではなかった(ただし、嫌いだというわけでもない)。が、このときの演奏には大いに心惹かれた。これをその場でじかに聴いた人は至福のひとときを味わったことだろう(なお、このリサイタルの録音はNHKの聴き逃し配信で1週間聴けるので、是非、お試しあれ。私も最初からきちんと聴き直すつもりだ)

ところで、調べてみると、エマールはシューベルトの舞曲だけでCD1枚つくっていたが、いかに演奏がすばらしくとも、舞曲ばかりをずっと聴き続けるのはさすがに辛い。が、彼がこの演奏会のようにクルターグ作品を合間に挟むかたちで録音してくれれば、私は迷うことなくそのCDを購いたい。