2025年3月12日水曜日

教育者としても偉大なシェーンベルク

  音楽理論の実習書では説明の中で「間違い」の例があげられてはいるものの、それはさほど多くはない。そして、課題の解答例がある場合、正解としてたいていは1つしか例があげられていない。

 なるほど、教師の下で学ぶ者にとってはそれで十分かもしれない。必要な補足説明は直接教師から得られるのだから。が、独習者はそういうわけにはいかないので、たいていの理論実習書は「痒いところに手が届かない」。

あくまでも私の知る限りのことだが、その例外的存在がシェーンベルクの対位法教本だ。そこでは2声対位法に限ってだが、1つの定旋律に対して「間違い」も含めていくつもの解答例が示されており、その訂正の仕方も含めて丁寧な設営がつけられている(ケクランの対位法教本(これも名著!)も1つの課題に複数の解答例が示されており、説明も詳しいが、「間違い」を含む解答例はあげられていない)。

もちろん、シェーンベルクは独習者向けにそうした教本を書いたのではなく、自分の授業内容を文書化したのだろう。が、だとすれば、彼がまことに懇切丁寧な教え方をしていたということがそこからわかる。つまりは、彼は作曲家としてのみならず、本格的な修業をする弟子に対してはもちろん、初級者に対する教育者としてさえも偉大だったわけだ。