昨日話題にしたフランクのヴァイオリン・ソナタについて、往年の名ヴァイオリニスト、ナタン・ミルシテイン(1904-92 )は興味深いことを述べている。曰く、
原理的にピアノはヴァイオリンと相性が合わない[……]。結局、言ってみれば、ピアノは打楽器なのだ、そのため、たとえピアノとヴァイオリンのための最高の作品であっても、実際に音を出してみると、どこか不自然に響く。有名なフランクのソナタの第二楽章では、ピアノはヴァイオリンをかき消すほど多くの音を弾く。そしてピアニストがよりソフトに弾こうとすると、曲に必要なエネルギーが失われてしまう。[……]ピアノのためというよりむしろヴァイオリンのために書かれたと言えるのは[……]緩徐楽章だけである(ナタン・ミルスタイン&ソロモン・ヴォルコフ(青村茂&上田京・訳)『ロシアから西欧へ ミルスタイン回想録』、春秋社、2000年、80頁)
ミルシテインはフランクのソナタが悪い曲だなどとは言っていない。ただ、彼の見るところ、そこでの主役はどちらかっといえばピアノだというわけだ(なお、この曲の正式名称は「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」である)。
昔、はじめて上の一節を読んだとき、このソナタに対して抱いていた「もやもや」――「なるほど名曲ではあるが、どこかバランスが悪いなあ」という感じ――の理由がわかった(そして、なかなかよい演奏に出会えない理由も)。が、そのことでこの名曲への愛が失われたわけではない。
ちなみに、上記の回想録は無類に面白い本であり、ヴァイオリン音楽ファンのみならず、音楽の演奏というものについて考える上でもいろいろな材料を提供してくれる。未読の方には一読をお勧めしたい(残念ながらもはや品切れだが、図書館で探せば見つかるだろう)。