いくらおいしい食べ物であっても、あまりに頻繁に口にしていれば、飽きて嫌にもなるというもの。「名曲」もまた然り。それゆえ、そのような場合、私はいかに名曲であっても徹底して遠ざけることにしている。いわば「塩漬け」にするわけだ。そして、長い時間を経てそれを取り出してみると、飽きた「名曲」も自分にとっての鮮度を取り戻しているのだ。
そうした「名曲」のうちで、このところ感動を新たにしているのが、フランクのヴァイオリン・ソナタである。同じ作曲者の作品でも交響曲その他はつかず離れずで楽しんできたのだが、このソナタだけはとことん嫌になった時期があったのだ。が、今、楽譜を引っ張り出してきてピアノで音を拾ったり、あれこれ録音を聴いたりしてみると、改めてそのすばらしさに胸を打たれる。のみならず、以前には感じられなかった美点があれこれ見つかるではないか。まことに喜ばしいことである。
そのフランクのソナタと同じ調性で書かれたフランスのヴァイオリン・ソナタの名曲といえば、フォレの第1番だ。この「名曲」からも私はしばらく遠ざかっているが、こちらはフランクほどには嫌気がさしていなかったものの、久しぶりに触れてみれば感動を新たにすることができるに違いない。そのためにはまず、行方不明の楽譜を見つけ出さなければ……。