ブゾーニの作品をこれまでにもっとも多く、しかもある程度体系的に録音したのは、オーストラリア出身のピアニスト、Geoffrey Douglas Madge(1941-)だろう。1980年代後半に出た6枚組のCDは当時としては画期的なものだった(私もかなり無理をして購った。当時はまだCDが出始めて日が浅かったので価格も高く、何と18000円もしたのである。これは奨学金とアルバイトなどで一ヶ月60000余円(!)で生活していた自分にとってはとんでもない買い物だった。が、買ってよかったと思っている)。が、その後、ブゾーニにそこまで録音で本格的に取り組んだピアニストはおらず、それだけにハーデンの企画はまことに貴重だ。
こうした企画と好対照をなしているのがお決まりの「名曲」路線である。たとえばベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は確かに名作揃いだが、だからといって、こうも次々と「全集」のCDが出るようではありがたみも失せようというもの(なので、今や私は新録音を聴こうという気には全くならない)。こうしたお決まりの「名曲」の供給過剰による価値の下落を音楽の供給者たちはどう考えているのだろうか?