2020年3月3日火曜日

ベート(ホ)ーフン

 今年はBeethovenの生誕250年。しかし、これほどの大物になると、今更改めて騒ぐ必要もないのではないか。常日頃、うんざりするほどに彼の作品は取り上げられているのだから。むしろ、彼の作品を少しは休ませてあげた方がよかろう(これは金澤攝さんの意見だが、私も賛成)。その方が「休み明け」のときに新鮮な気分で作品に接することができて、そのありがたみもわかろうというもの。 


 ところで、その Beethovenだが、日本では「ベートーヴェン」(もしくは「ベートーベン」と表記され、アクセントも「べー」と「トー」の2箇所につけて発音されている。だが、ドイツ語での発音は/bˈeːthoːfn/(本当はfの下に「ˌ」という記号がつくのだが、都合により割愛)、無理にカタカナ書きすれば「ベート(ホ)ーフン」(アクセントは最初の音節のところ)だ(「ベ」は「ビィ」に近い。発音記号のeは日本語の「エ」ではなく、「イ」との間にある音だ。また、thoは実際には「ト」に聞こえる)。「ベートーヴェン」という発音は英語に由来するが、なぜか日本ではこちらが定着している(なぜそうなったのだろう? 興味の持たれるところだ)。


 ある作曲家の音楽を重んじるのならば、その名前の「音」も重んじた方がよい、とは言えよう。とはいえ、もちろん、「ベートーヴェン」はもはや外来語として定着しているので、今更原語の発音に戻すのは無理だし、そうする意味もない。そして、こうしたことは少なからぬ作曲家の名前についても言えることだ。
が、あまり一般になじみのない人の場合はまだ間に合うかもしれない。たとえば、A. Webern1883-1945)などはどうだろうか(ちなみに発音はvˈeːbɐn)クラシック音楽愛好家の中でも彼の音楽を知らない人は少なくないだろうから、「ヴェーベルン」という表記ではなく、「ヴェーバーン」としてもあまり支障がない……かも。少なくとも、20世紀の作曲家の多くについては、まだ「原音に忠実」であることが可能なような気がする。「カタカナでは『アイウエオ』に収まらない母音やあれこれの子音の表記ができないので、下手なことはしない方がよい」という考え方も当然あろうが……。

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