2020年3月21日土曜日

あれこれの記

 「作曲家が自作の最大の理解者だとは限らない」とはしばしば言われることだ。そして、「それゆえに演奏家には作品をよりよいかたちで示す好機が生じうる」ということも。それは聴き手についても言えることだろう。つまり、作品の演奏を聴き、作曲家や演奏家が気づいていない意味や意義を聴き手が見出すこともありうる、ということだ。そして、だとすると、聴き手も「かくあるべし」という自分なりの前提に縛られすぎずに、もっとゆったりとして気持ちで音楽を聴くのがよかろう。

 金澤攝さんが「中村攝」時代に録音した最初のアルバム『スフィアー――中村攝の世界』(オーディオラボ、1977年、CD盤は1986年)を久しぶりに聴いてみた。録音当時、攝さんは16歳だったが、たぶん、日本人としては空前絶後のデビュー盤であろう。収録作品は次の通り(曲名表記はアルバムでのものに従う)。

 B. A. ツィンマーマン:《コンフィグラツィオーネン》
 P. カスタルディ:《グリッド》
 N. カスティリオーニ:《イニツィオ・ディ・モーヴィメント》
 A. ヴェーベルン:《クラヴィアステュック》
 S.  プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調op. 83

 中村攝:《ピアノのための小品》
    :《三つの幻想》
    :《ピアノ・ソナタ》
    :《七つの童話》
    :《習作》
    :《ガヴォット》
H. ホリガー:《エリス》

演奏もまことに鮮烈で、今聴いても凄い。
 このアルバムに続くのが『ヒンデミット・ピアノ曲全集』(4枚組、オーディオラボ、1978年)で、これもまた何ともスリリングな演奏である(《ピアノ音楽》作品37については、これ以上の演奏を私は知らない)。こちらはCD化されていないが、まだ攝さんのところに在庫があるはずだ(限定500組で、私が1986年に購ったものには「152」の番号がついている)。
 が、これらのアルバムはいわば攝さんの「前史」のようなもの。その本当の活動が繰り広げられるのは、その後のことであった。

 ドイツ在住の(向こうの日本企業に勤めている)弟が「ドイツ・コロナ通信 2020年」と題したメールをくれた。それによると、「子供は自宅学習」で弟も「会社をロックアウトされ在宅勤務」だとのこと。「昨日の州政府からのお達しではレストランは休業、3人以上が集まると罰金で警察がガチに取り締まりにでるということです」だとか。いや、なかなかたいへんそうだ。