2020年10月24日土曜日

メモ(20)

 「危機は最大の好機」と言われる。世の中の「当たり前」がいろいろな面で立ち行かなくなりつつあるときこそ、まさにイノヴェーションの絶好の機会到来というわけだ。西洋芸術音楽にとっても今はまさにそのときであろう。そのイノヴェーションの担い手は必ずしもプロの音楽家や業界の関係者に限らない。生活の中で音楽を欲している普通の愛好家もまた、自分が音楽に求めるものを何らかのかたちで表明し、自分なりの音楽生活を営む中でこのイノヴェーションに大きく関わることができるはずであり、むしろ、こちらの方が重要な契機だとさえいえる。そして、私が興味を持ち、(あくまでも「同行者」として)関わりたいと思っているのは、そうした個人レヴェル、ひいては小さなコミュニティーのレヴェルでのイノヴェーションの方だ。

 ご近所図書館で岡田暁生『音楽の危機――《第九》が歌えなくなった日』(中公新書、2020年)を借りてきて、読み始めた。さすがにこの著書の手になるものだけあって面白い(今日、「危機」ということを話題にしたのは同書の影響か)。著者と私とでは見ている音楽の世界の風景や営んでいる音楽生活はかなり異なるのだが、それだけに「なるほど、このような考え方もあるのだなあ」と時には大いにうなずき、時には首をひねりつつ興味深く読めるわけだ。