ある時期から国内の楽譜出版社は既刊の管弦楽曲のスコアを順次リニューアルしている。昔は外国の版に基づきながらその出所を明かさないいわば「海賊版」を堂々と出していたのだが、幸いそうした旧弊が正されつつあるわけだ。
さて、その「リニューアル」の仕方だが、たとえば、音楽之友社のスコアを見ると、次のように記されている。「本スコアは実用版を底本に、諸資料を参照して作成したオリジナル版である」と。そして、斯界の新しい研究成果を踏まえた「解説」もつけられており、なるほど、「海賊版」時代を思えば、格段の進歩である。が、惜しいことにそこでは「底本」と「諸資料」を明記しておらず、編集責任者も明かしていない。スコアには「解説」がついており、その執筆者の名は掲げられているが、どうもそうした人たちが編集しているというわけでもなさそうだ(もし、そうでなければ、「○○編」と明記されているだろうから)。その点、全音楽譜出版社のリニューアル・スコアには「底本」と「諸資料」、そして「編集責任者」名も明記されており、のみならず、簡単な校訂報告もつけられている(まあ、批判校訂版におけるような「校訂」とは性質が異なるとはいえ、それでも諸資料を比較・検討して昔の版に散見される誤記を訂正している点は高く評価すべきであろう)。音楽之友社のスコアとてきちんと新たにつくられているのであろうから、こうした情報は明示した方がよかろう。
……などと言いながら、私は実はこれまでそうした「リニューアル」スコアを用いたことがなかった。が、ずっと気にはなっていたので、先日、試しに1冊購ってみた。全音から出ているチャイコフスキーの交響曲第5番である(2017年初版)。手元には同社の旧版もあったので、見比べてみたが、なるほど「校訂報告」で述べられているような諸点が改められていた。また、管楽器の書き方もすっきり整理されており(まあ、これは底本の流儀を踏襲したのかもしれないが)、判型も少し大きくなっているので、読みやすい。というわけで、研究用ならともかく、普通に用いる分にはこれで十分だと思った。それゆえ、私も今後、こうした「リニューアル」スコアをあれこれ利用するつもりだ。