2020年10月27日火曜日

かつてFM放送で味わった幸福感

  昔は地方在住者にとってNHKの音楽番組というのはまことに貴重な情報源であり、また、広い世界に耳を開かせてくれる場だった。それゆえ、私は80年代の半ばまではFM雑誌を欠かさず講読し、予め聴きたい番組を調べて、準備を整えて放送時間を待ったものである。そのときの期待感、そして、実際に放送を聴いてすばらしい音楽に出会えたときの幸福感には得も言われぬものがあった。

 今となっては、私にとってNHK-FMというのは週に一度、オーディオ・ドラマを聴くためのものでしかない。昔に比べて楽しめる番組が減ったということもあるし、今やインターネットで多種多様な音楽に触れられるということもある。が、逆に、ごく限られた情報にしか触れることができなかったからこそ、FMを通して聴いたものが輝きを持っていたのかもしれない。とにかく、かつて味わった幸福感は完全に記憶の中のものになってしまった。わびしいといえばわびしいが、まあ、仕方があるまい。さて、現在の地方在住の少年少女はFMを聴いているのだろうか。そして、もしそうならば、果たしてそれをどんな感じで楽しんでいるのだろうか。