ハンス・ロスバウト(1895-1962)といえば、「現代音楽」を得意とした指揮者で、同世代のヘルマン・シェルヒェン(1891-1966)と双璧を成す存在だ。が、私はこれまで後者の録音はそれなりに熱心に聴いてきたが、前者についてはそれほどでもなかった。が、このところ、そのロスバウトに深い興味を抱きつつある。「現代」ものの演奏の見事さについては種々の録音で知っていたが、それ以外の作品の演奏をいくつか聴くにおよび、この指揮者の偉大さにようやく気づいた次第。
シェルヒェンも「古典」をこなし、しかも、その多くは「面白すぎる」。その点、ロスバウトはそれほど奇をてらったことはせず、かなり素直に作品に向かっている。が、音楽の組み立てを精緻に描き出すだけではなく、何とも自然に音楽の流れを聴かせるロスバウトの手腕は実に見事。たとえば、シベリウスの第2交響曲では「構造」と「音響」の両面にバランスよく聴き手の耳を向けさせつつ、音のドラマとしても説得力を持つものをロスバウトはつくりだしているのだが、こうした演奏を私は他には知らない(もちろん、他の面で魅力的なこの曲の演奏はいろいろあるが)。チャイコフスキーの第5交響曲などでも、やはり「知と情」のバランスが絶妙だ。というわけで、これからこのロスバウトの録音をあれこれ聴くのが楽しみだ。