飽きるほど聴いてしまった「名曲」を新鮮な気分で楽しむ1つの手段が「編曲」だ。たとえば、管弦楽曲をピアノ(独奏、連弾、2台)用に編曲したものや、その逆のもの等々。優れた編曲ならば、原曲では見えてこなかった点にいろいろ気づかせてくれもするから面白い。
今日もそうした「編曲」を1つ聴いて楽しませてもらった。それはベートーヴェンの「第九」のピアノ独奏版だ。しかも、有名なフランツ・リストの編曲ではなく、それよりも上の世代のフリードリヒ・カルクブレンナー(1785-1849)の手になるものだ(https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%EF%BC%881770-1827%EF%BC%89_000000000034571/item_%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC9%E7%95%AA%E3%80%8E%E5%90%88%E5%94%B1%E3%80%8F%E3%80%9C%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BC%E7%B7%A8%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%EF%BC%86%E5%A3%B0%E6%A5%BD%EF%BC%88%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E8%AA%9E%EF%BC%89%E7%89%88-%E5%BA%83%E7%80%AC%E6%82%A6%E5%AD%90%E3%80%81%E3%82%A8%E3%82%AB%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E5%90%88%E5%94%B1%E5%9B%A3%E3%80%81%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A6%E3%80%81%E4%BB%96_11120125)。リスト編に比べて随分すっきりした編曲だが、それだけに原曲の「かたち」がいっそうよくわかるものとなっており、それこそ厚化粧の大管弦楽ではなく小管弦楽による演奏を聴いているような感じがする。しかも、このカルクブレンナー編は終楽章の独唱・合唱は「本物」に任せており(なお、面白いことに歌詞には原語のドイツ語ではなく仏訳が用いられている)、リスト編のようにピアノで処理していない(この点は若きヴァーグナーの編曲と同じ)。その点でもピアノに無理がかかっておらず、音楽に「余裕」が生まれている。
今回聴いた録音のピアニストは広瀬悦子。相変わらず面白い選曲には唸らされるが、彼女の場合、演奏自体も見事で、そこがまたすばらしい。彼女が弾く「第九」を聴くと、やはりベートーヴェンは「古典派」なのだということを改めて強く感じさせられる。とにかく、何とも魅力的な演奏であった。カルクブレンナーは他の8曲の交響曲も編曲しているとのことなので、これも広瀬の演奏で聴いてみたいものだ。そして、それに限らず、いずれ彼女の実演を聴いてみたい。