2021年5月5日水曜日

2人のビル

  昨日話題にしたボルコムの名を私が初めて知ったのは80年代後半、まだ学部学生の頃だった。フレデリック・ジェフスキ(1938-)の《北米のバラード》(1989-79)を聴きたくて購ったCD(当時、何と13800円もした! CD初期にはごく普通の価格だったが……)にボルコムの《3つの幽霊ラグ》(1970-71)(とコープランドの《4つのブルース》)も収められていたのである(ちなみに演奏者はポール・ジェイコブズ(1930-83)。現代ものを得意としたピアニストだが、私はあまり好きではない。が、当時はこの録音しかなかったのだ)。そして、一聴してそのまことに趣味のよい音楽に魅せられた(ジェイコブズの演奏自体はさほど面白くはないのだが)。また、その少し後に聴いた《12の新エチュード集》(1977-86)もよい音楽だった(そのCDの演奏者はマルカンドレ・アムランだが、当時はまだあまり有名ではなかった。私は演奏者のことなど気にせずこのCDを購っており、かなり後になってからアムランが演奏者だということに気づいた)。

 オルブライトを知ったのはそれよりすこし早い。1985年に金澤(当時は「中村」)攝さんが石川県立美術館の「ミュージアム・コンサート」で「現代アメリカのピアノ音楽」と題したプログラムで演奏し、そこでオルブライトの名作《5つの半音階的舞曲》を取り上げており、それを聴いたのである(この演奏会では他にジェフスキの《4つの小品》(1977)やヘンリー・カウエルの作品も弾かれた。現在でもなかなか聴けない選曲だ)。こちらは作品だけではなく演奏もすばらしく、オルブライトの名は私の頭にしかと刻み込まれたのだった(なお、攝さんは1997年にオルブライト作品のみを取り上げた演奏会をしており、そこではアルト・サクソフォン・ソナタ(1984)も取り上げられている。たぶん、これが日本初演のはずだ)。

 ともあれ、初めての出会い以来、この「2人のビル」の音楽を私は好んでいるのだが、残念ながらなかなか実演で触れることができない(のみならず、オルブライトは現役のCDもほとんどない。人気曲アルト・サクソフォン・ソナタを収めたものはさすがにあったが)。彼らの音楽は普通の聴き手にも十分に喜ばれるはずなので、レパートリーを拡げたいと思っている意欲的な演奏家には是非とも挑戦してもらいたい(Youtubeで探せばいろいろな作品が聴ける)。