イサーク・アルベニスの傑作《イベリア》(1905-8)全12曲中、多くが「ソナタ」形式の枠組みで書かれている。すなわち、2つの対照的な主題、展開部に相当する部分、そして再現部を持ち、各部の調構成もソナタ形式のものを踏まえている。が、それはあくまでも「枠組み」だけのことにすぎず、本格的なソナタとは些か趣を異にするものだ。
こうしたソナタの「枠組み」の利用(これを『ソナタ諸形式』の著者チャールズ・ローゼンならばどう評しただろうか?)はファリャの《ベティカ幻想曲》(1919)(「ベティカ」とは「アンダルシア」のローマ時代の古名)にも見られる。そして、アルベニスとファリャの共通点といえば、スペイン音楽界の大御所フェリペ・ペドレル(1841-1922)の影響を受けていることと、パリに住んで当地の作曲家との密なつきあいがあったことだ。このあたりの事情を探ってみたら面白かろう。
ところで、上記ペドレルの弟子の1人がルベルト・ジェラルト(1896-1970)である。のちにシェーンベルクにも学び、同世代の中で前衛的な作風をとった人だが、若い頃の作品にはちゃんと調性があり、出自を偲ばせる音楽となっている。いずれにせよまことに興味深い作曲家だ。
自分がもう20ほど若ければスペイン音楽を探求したかもしれない(十数年前にはオルテガ・イ・ガセットの芸術論を勉強したことがある)が、今はさすがに心身共にその余裕はない。できるのは「楽しむ」ことだけだ。それゆえ、濱田滋郎氏の後継者たる新たな「スペイン音楽の求道者にして語り部」の登場を待ち望んでいる。