2021年5月8日土曜日

藤井淑禎『乱歩とモダン東京――通俗長編の戦略と方法』

 藤井淑禎『乱歩とモダン東京――通俗長編の戦略と方法』(筑摩書房、2021年)という本をとても面白く読んでいる:https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480017277/

江戸川乱歩の小説が時事風俗にいろいろと取材したものであり、そこが面白さの一因だろうとは思うものの、いかんせん遙か昔のことなれば、読んでいてどうしても隔靴掻痒の感がしないわけにはいかない。が、同書は「大衆読者のあこがれをかきたてるような一九三〇年代のモダン東京の華やかな部分を活写し、見事に作品展開に生かした」乱歩の手法を解説しつつ、「これまで研究されてこなかった通俗長編の中に、大衆の心をつかむ仕掛けとしての大東京の描写を読みといていく」(同書の惹句)ものであり、まさに「痒いところ」のある程度の解消に役立ってくれそうな書なのだ。

もちろん、読み手の側としても受け身でいるのではなく、最大限に想像力を働かせ、「モダン東京」のありようを思い浮かべつつそこに我が身を置いてみなければなるまい。この「時空を超えた旅」はさぞかし楽しいものになるだろう。